うだがわんの思考

人には言えない事を書きます

アインシュタイン、フロイト「人はなぜ戦争をするのか」書評

筆者の後書きを含めて100ページほどの薄い本。読むのに慣れている人であれば30分ぐらいで読み切れる。

1930年ごろ、国際連盟から相対性理論を発見したアインシュタインに向けてあることを依頼された。

「今の文明においてもっとも大事だと思われる事柄を、一番意見を交換したい相手書簡を交わしてください」

アインシュタインは心理学の権威フロイトを選び、題材は

「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか?」

もはや究極の命題と言っても過言ではないこの問題について100年前すでに偉大なふたりの科学者が意見を交換しあっていた。これ以上この問題に口出しをする必要もないんじゃないか。この二人を否定できる人間はどれほど偉大な功績を残したのかきになるものだ。

まず本書でこの問題についての決定的な答えにはたどりついていない。それは人間が欲動という行動と文化という縛りを設けたことで戦争やテロがとても複雑化しているからだ。さらにはお互いの専門分野を熟知していないためそれほど深入りできる話まで進展しなかった。これはむしろ専門的な学問から解を作り出して批判を浴びなかった点では幸運なことだと思う。

実現が難しいと提言しているがふたつほど戦争のなくなる方法を述べている。一つはすべての国が進んで援助する一つの権力団体を作ることであらゆる問題に対処できるよう努めるもの。もうひとつはすべての国が共産主義になることだ。権力を集中させる矛先としての国際連盟だったが、これはあらゆる紛争を解決するほどの権力を持ち合わせていないため、効果を発揮していない。また二カ国を除いて資本主義化された国を共産主義化させるのも現実的にありえない話だ。

 

正直人が人でなくならない限り戦争はなくならないと持っている。本書にも書いてあったが武器を持った勢力がぶつかり合った時戦争に発展する。規模が国家レベルの話になると一見遠い話のように感じるが規模を小さくすればささいな戦争ととらえることもできる。いじめ、仲間同士の罵り合い、他者の冒涜、受験、業績などお互いの武器(能力)を用いて他人を蹴落とし、差別し、逸脱するそれらも国家のする残虐行為と似た部分がある。競争原理に立っている以上しかたのないことだ。これを是正するなら話は意外と簡単で、自分が能力を発揮しなければいい。ラッセルの「幸福論」にも書いてある。能力を見せず、競争社会から身を引くことは争いのタネを自分から排除できる一つの方法だろう。果たして社会がそれをゆるすかどうかはまた別だが。